クイア・プラクティス

ノン・ヘテロの身体障害者。雑文書き。観て読んで考えて書く。それが反応。

女たちの本

本の花束(15)川口有美子・新城拓也『不安の時代に、ケアを叫ぶ(2022、青土社)』

青土社のプレゼントキャンペーンでいただきました(先着順)。哲学科専攻だったので、学生時代から青土社にはお世話になっております。代わりに書評を書いて自分のブログにアップしようと思いますが、雑誌のように字数制限がありませんので、あまりに長くな…

本の花束(14)カリン・ボイエ『カロカイン』(2008年、みすず書房)

ウィキペディアの「レズビアンの作家一覧」に、カリン・ボイエ(1900–1941)があり、『カロカイン 国家と密告の自白剤』があったので、さっそく図書館で借りて読みました。本の裏表紙にはこう書かれています。 地球的規模の核戦争後、人びとは、汚染された地…

本の花束(13)佐藤亜有子『花々の墓標』(ヘルスワーク協会、2008年)

2016年の日記に、佐藤亜有子が亡くなった、と書いてあり、わたしは自分で書いたものに自分で驚きました。佐藤亜有子という作家も知らなければ、彼女が亡くなったことすら知りませんでした。なぜ無名の作家が死亡した件を日記につけていたのでしょうか。5年前…

本の花束(12)小池昌代『黒雲の下で卵をあたためる』(岩波書店、2019年)

詩の言葉はとても光り、ときには胸にひどく刺さりますが、小説となるとさほど光らない人がいます。中島みゆきです。わたしは40年くらい(最初はたぶん小4)彼女のファンでして、深夜放送も毎週欠かさず聴いていました。大学受験の年になると、彼女は深夜ラ…

本の花束(11)ハンナ・アーレント『全体主義の起源』(みすず書房、2017年)

『ハンナ・アーレント(2013)』が岩波ホールで公開され、インディペンデントシアターだけに珍しくヒットしました。わたしも公開時に劇場で観て、DVDをさっそく買って何度も観ました。 内容はハンナ・アーレントがエルサレムでのアイヒマン裁判をすべて傍聴…

本の花束(10)福田須磨子『われなお生きてあり』(1977年、ちくま文庫)

長崎の原爆を題材とした映画や文学はないものかと思い、探してみると黒澤明『八月の狂詩曲(1991)』がありました。原作は村田喜代子『鍋の中(1987)』です。私が無知でした。 広島に原爆が落とされたのは8月6日、長崎は8月9日でした。たった3日とはいえ、…

本の花束(9)砂沢クラ『ク スクップ オルシベ――私の一代の話』(北海道新聞社、1983年)

私が20~30代のころ、新宿二丁目に行きつけのバーがありました。あるとき偶然、宇梶剛士さんが店に入ってきました。宇梶さんはマスターに電話して事前に確認し(お客さんが少ないときに店にやってきた)、バーのカウンターの隅っこで、大きな図体を縮こませ…

本の花束(8)朴壽南『もうひとつのヒロシマ 朝鮮人韓国人被爆者の証言』(1982年、舎廊房出版部)

詳細は省きますが、「平和の少女像」などを展示した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」内の企画展『表現の不自由展・その後』が、開催から3日間で中止に追い込まれました。いまから3年前の出来事です。「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」と書かれた…

本の花束(7)「カミーユ・クローデル」(レーヌ・マリー・ハリス、エレーヌ・ヒネ、1989、みすず書房)

フランスの女性彫刻家カミーユ・クローデル(1864~1943)は、ロダンの弟子であり愛人であり、また詩人ポール・クローデルの姉でした。彼女はたぐいまれな才能と美貌に恵まれ、ロダンとポール・クローデルという二人の芸術家に深く霊感を与えながら、自らは…

本の花束(6)ベッティーナ・ヒューリマン『子どもの本の世界/300年の歩み』(1968年、福音館書店)

「子どもの本」といえば童話や絵本が思い浮かびますが、わたしはまったくと言っていいほど、これらの本には触れたことがありません。わたしが子どもだったころ、二つ上の姉がキリスト教幼稚園に通っており、月ごとに聖書をもとにした絵本をもらってきました…

本の花束(5)広河ルティ『私のなかの「ユダヤ人」』(1982年、集英社)

第2回(1982年度)PLAYBOYドキュメント・ファイル大賞で最優秀作品受賞作となった本書の著者は、イスラエル生まれのフランス人で、1981年3月、フランス国籍を失いました。また同時に、日本における帰化申請は、法務省において「日本社会への同化の程度に疑問…

本の花束(4)大田洋子『屍の街・半人間』(1995年、講談社文芸文庫)

原爆をテーマにした物語は、こうの史代『この世界の片隅に(2011)』が出版され、同年にテレビドラマ化され、2016年には劇場アニメとして公開されました。わたしも劇場に足を運びました。作品はひじょうに素晴らしいのですが、一部の「感傷的(ノスタルジー…

【本の花束・番外編】ヘレン・ジェファーソン・レンスキー『オリンピックという名の虚構――政治・教育・ジェンダーの視点から(晃洋書房、2021)』

最近、コロナ禍でありながら、日本政府が東京五輪を何としてでもやり遂げようとする動きがあって、みなさんは不審に思われないでしょうか。わたし? わたしはとっくに不審を感じていました。 2013年、都知事がまだ石原慎太郎だったときのことです。東京オリ…

本の花束(3)高井としを『わたしの「女工哀史」』(1980、草土文化)

この本は、高井さんが七八歳のときに出版された自伝です。「女工哀史」という言葉は誰もが知っている、細井和喜蔵『女工哀史』(1925、岩波文庫所収)が出版されてからです。 わたしはこの本は読んでおらず、幼いころテレビドラマ『あゝ、野麦峠』を観た記憶…

本の花束(2)関千枝子『この国は恐ろしい国(1988、農山漁村文化協会)』

今年2月、88歳で死去したノンフィクションライター、関千枝子さんの最後の著書『続ヒロシマ対話随想』が3月に発売されました。親交のあった作家で被爆者の中山士朗さんと書き上げ、生前に原稿の確認まで済ませていたそうです。 13歳のときに広島で原爆に遭い…

本の花束(1)アンナ・ラングフュス『砂の荷物(1974、晶文社)』

ネットフリックスのオリジナルドキュメンタリー『最期の日々:生存者が語るホロコースト(1998)』はすでに観ましたが、ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅政策についての9時間半に及ぶ証言映画『ショア(SHOAH、1985、フランス)』は、私はまだ観ておりませ…

本の花束 はじめに

ホロコーストの生還者でノーベル文学賞作家のヴィーセルや、ユダヤ人女性作家アンナ・ラングフュスの本を調べていたら、久保覚『古書発見 ――女たちの本を追って(2003、影書房)』という名著をたまたま発見しました。久保覚(1927~98)さんは『新日本文学』…