クイア・プラクティス

ノン・ヘテロの身体障害者。雑文書き。観て読んで考えて書く。それが反応。

私もうフケ専だと思われてもいい!

フランダースの犬』『アルプスの少女ハイジ』はオンタイムで視聴したが、『ロミオの青い空』は存在すら知らなかった。放映期間は1995年1月~12月。大人の階段を登り切ったわたくしは、9月初旬にこのニュースを知って「ふ~ん」と思いながら食事準備などでラジオ代わりに利用した。(期間限定らしい。観てない方はお急ぎを!)

で、『ロミオの青い空』全33話視聴完了。前半のほうは途切れ途切れでうろ覚えな感じだが「なんか貧しくてかわいそうな少年たちなのねふんふん」とぼんやり思っていた。

主な登場人物は各々でチェックしていただいて、20話(だったかな?)で唐突に「病弱のアンジェレッタが実は貴族の生まれ?」とのプロットがぶち込まれる(そもそもアンジェレッタの位置関係が不自然)。

主人公はロミオという少年。スイスのソノーニョ村に住み、貧しくても幸せな3人家族だった。しかし父が目を患って働けなくなり、同時に少年を対象に人身売買を行う通称「死神」が村にやってきて、ロミオを売ってミラノの煙突掃除人にしてしまう。日本の実写版『おしん』のようなものだ(ざっくり)。

煙突掃除人として集められた少年たちのなかには、美しいアルフレドがいた。知識と教養があり、勇敢で、ロミオはアルフレドと仲良くなったが、ミラノ行きの船で嵐に遭い、知り合った少年たちはバラバラになる。

無事ミラノに到着したロミオは、煙突掃除の親方マルチェロに85リラで買い取られる。エッダはいつもマルチェロを尻に敷いていて、金に汚く高圧的だ。嘘つきで意地悪なアンゼルモは母エッダに猫かわいがりされ、二人ともロミオに辛く当たる。

この家には「開かずの部屋」がある。部屋の住人アンジェレッタは病気療養中のためずっとこの部屋にいた。ロミオとアンジェレッタはすぐに仲良くなるが、家族の誰にも似ていないことが視聴者にもわかる。

で、唐突なドラマ展開。実はアンジェレッタはアドルフォ・モントバーニ伯爵の実の娘であり、モントバーニ伯爵夫人(通称:氷の伯爵夫人)が生まれて間もないアンジェレッタを密かにマルチェロに預ける。つまりアンジェレッタはモントバーニ伯爵夫人の孫娘なのだ。

アドルフォは一人の村娘と恋に落ち、結婚したいと主張するが、伯爵夫人に当然反対され、駆け落ち同然でモントバーニ家を出る。そしてアンジェレッタが誕生し、二人は若くして病死する。なんと悲劇に都合がいいドラマ展開だろう。

わたくしが心の琴線をがっつり揺さぶられたのは、いくつか理由がある。

1)年だから
放映当時は「ふ~ん」で済んだかもしれないが、50歳のわたくしはすでに涙腺のパッキンが伸び切っており、ティッシュで鼻をかみながら嗚咽すら上げるという体たらくであった。『ロミオの青い空』は確かに名作だが、でも騙されないぞ。

2)アンジェレッタの天使っぷり
そうは言っても「悲劇の名作」ならなんでも泣くというわけではない。伯爵夫人の存在を知り、「おばあさまに会いたい」とアンジェレッタはしきりにロミオに言う。心臓の病気で寿命が短いこともアンジェレッタは知っている。パリに心臓の名医がおり、マルチェロ一家にはとても手の届かない金額だった。「おばあさまに会うのが私の最後の夢」と言う。何ていじらしい子…。

3)なぜ「氷の伯爵夫人」になったのか?
伯爵夫人は最初から冷徹な女性ではなかったのに、冷徹にならざるをえない理由があった。それは溺愛していた息子アドルフォがモントバーニ家にふさわしくない恋人と駆け落ちし、アンジェレッタという子どもを産んだことである。伯爵夫人はモントバーニ家という財産を守るため、アンジェレッタを跡継ぎにせず、密かに私生児としてマルチェロに預けた。11歳の誕生日に「おばあさまに会いたい」というアンジェレッタを「まさか財産狙いでは…?」と疑心暗鬼になり、決して会おうとはしなかった(アドルフォ以外にも次男三男がいて見え透いたおべっかを使う)。
伯爵夫人はバッカスというドーベルマンを飼っており、他人が近づいたら警戒して唸ったり吠えたりするが、アンジェレッタと初めて会ったときには懐いて頬をペロペロするのだった。伯爵夫人にとって、その様子が幼いアドルフォと生き写しであった。彼女の心の氷は一気に溶解し、彼女の病気を治すために二人でパリに行く。「私の生涯はこの子を守ることです」と、ころっと豹変する。この豹変っぷりがツボだったと思う。

4)フケ専の自覚はあるのか? ないのか?
イザベラ役の山口奈々さんは現在82歳。ということは、吹き替え当時57歳である。声質は暖かく甘いアルト。だが「氷の伯爵夫人」と言われるだけのことはあり、厳しく冷徹な声がわたくしの耳をゾクゾクさせる。
フケ専つながりで映画『小さいおうち(2014)』を鑑賞。回顧録ノートをつけていたタキは「私、長く生き過ぎたの…」と机に臥して泣く。それにつられてわたくしも泣く。布宮タキ役は倍賞千恵子。現在79歳。私もうフケ専だと思われてもいい!

 

 

 

(2020年9月19日)